本研究では、日本政府による地球温暖化対策についての実験的なCVM調査において、回答者がかける努力の程度に注目した。その結果、回答結果の政策への影響のしかたに応じて努力の程度が変わることがわかった。また、調査参加に対して支払う謝金額を増すと、努力の程度が増すこともわかった。 このようなことを調べた理由であるが、第一に、CVMの回答の動機に興味があった。特に、回答者が自分の回答の帰結を考えて答えているか調べることが目的であった。第二に、地球温暖化のように複雑な環境問題について評価をする場合、回答者によく考えて努力して答えてもらうことが大事である。その場の思いつきで答えてもらうだけでは、政策の評価として心許ない。そこで、回答者に与える贈り物(謝金額や有益な情報)の程度により、努力の程度が変わるか調べた。
さて、上に述べた研究結果は、一見、当たり前にみえる。そこで、研究上の意義および研究方法、また結果について以下にやや詳しく述べたい。
CVMに関する既存研究の中には、WTP表明の動機を尋ねたものがいくつかみられる。この手法は便利だが、表明された答えにたよるという点で、ややおぼつかない感もある。これに対して本研究では、回答時間という外部から測定可能な指標を用いてCVM調査への回答の動機の一端を探ることが特徴である。 次に、贈り物と努力の関係である。郵送調査では、ボールペンなどのちょっとした贈り物を同封することで回収率が上がるといわれている。ここでは、このような贈り物の効果により、回答にかける努力が増すか調べる。贈り物としては、第一に謝金、第二に地球温暖化についての情報の提供を考える。今回の実験では、贈り物をする際に、調査者側としては努力してよく考えて答えてくれるのが一番うれしい、と回答者に伝えておく。しかし、実際に努力するかどうかはひとえに回答者にゆだねられている。たとえば、謝金は実験開始時に渡しており、あとは、調査が終われば帰って良い。さっさと調査に回答して帰れば、バイトとしてはとても割がよく、利己的な人はそうするであろう。一方、互恵的な人は、謝金をもらえたことに対し、よく考えることで調査者に対してお返しをしてくれるかもしれない。今回の実験では、謝金額として1300円と2000円の2種類を用意した。また、調査票としては、地球温暖化についての情報提供量が大きな版と小さな版を用意した。これらの結果を比較し、努力水準に違いがあるか調べる。
実は、上に述べたCVM調査の流れは、贈り物をもらった人がお返しをするかしないか自由に決められるという点で独裁者ゲームというゲームと同じ構造になっている。実験経済学では、独裁者ゲームにおいて利他的な行動や互恵的な行動が存在するかが議論の焦点となっているが、CVMの回答時の努力に対する贈り物の効果も同じ種類の議論といえる。
次の写真は、パソコンを利用した調査票である。被験者は、マウスとキーボードを使って回答する。調査票は、JavaScriptで作成しており、各ページの閲覧・回答にかかった時間が自動的に計測される。
| 実験条件 | 調査時間(分) |
| 税額決定目的、2000円、情報量小 | 36.73 (7.75) |
| 税額決定目的、1300円、情報量小 | 36.02 (8.76) |
| 教育目的、2000円、情報量小 | 34.99 (6.64) |
| 教育目的、1300円、情報量小 | 33.44 (6.29) |
| 税額決定目的、2000円、情報量大 | 41.66 (9.35) |
まず、調査目的ごとの所要時間の分布を次のグラフに示す。税額決定目的の場合の方が、全体に所要時間が延びているようにみえるが、統計的にみても有意な差である。このような差が生じることは、被験者が自分の回答の帰結を考えて調査にかける時間を決めるという見方と合致している。したがって、被験者は、CVMの回答にあたって、当人に対する回答内容の帰結を考慮して行動しているといえそうである。
実線が税額目的調査、点線が教育目的調査である
つづいて、贈り物の効果である。まず、謝金については、謝金額が大きいと調査にかける時間がのびる傾向があるものの、統計的に有意とまではいえない。ただし、謝金額が大きい方が謝金に対する満足度(5段階評価で質問)が高く、また、謝金に対する満足度が高い方が調査に長く時間をかけていること、は統計的にも確認できた。これらをつないで考えると、効果は弱いものの、謝金を大きくすることで回答に対する努力の程度が向上していることがわかる。これは、被験者が、謝金に対して互恵的な行動し、努力をしてくれたと読み取れそうである。次に、温暖化に関する情報提供については、互恵的な行動の存在は否定できないが、積極的な肯定もできないという結果になった。情報量を増すと、調査に費やされる時間は明らかに延びる。これは、情報をもらったお返しに調査に努力して答えてくれたという見方と合致する。しかし、今回の調査では、すべてのページをスクロールして見なければ先に進めなかったので、情報量の大きな調査票では、単にスクロールに余計な時間がかかったとも考えられる。したがって、情報提供によって調査時間が縮むことはなかったという点で、贈り物としての情報の効果は否定はされないが、存在するともいいきれないという結果である。
注1:これらの調査目的は、実際には実験の必要から設定したものであり、真の目的ではなかった。この点について、実験終了後に被調査者に説明を行った。また、謝金額についても、被調査者の作業内容等とは関係なく、実験の都合上差額をつけたものであるので、実験終了後に差額の精算を行った。これらの研究計画については、東京工業大学大学院社会理工学研究科疫学研究審査委員会の承認を得た(承認番号DS04-0003R)。
注2:国立環境研究所/東京工業大学大学院社会工学専攻の増井利彦助教授より、同チームの名称使用について快諾いただいた。また、回答者に提示した地球温暖化の影響予測についてもAIMモデルによる最新の予測結果をご提供いただいた。
<参考文献>
Hidano, N., Kato, T., and Aritomi, M. (2005): Benefits of participating in contingent valuation mail surveys and their effects on respondent behavior: A panel analysis. Ecological Economics. Vol.52, No.1, pp.63-80.
(文章作成 加藤尊秋)